緩和ケアでは、「身体的苦痛」「精神的苦痛」「社会的苦痛」「スピリチュアル的苦痛」の”4つの苦痛”への包括的ケアが求められています。
この記事では「スピリチュアル的苦痛に対するケア」にフォーカスして、解説しています。
- スピリチュアルケアに不安がある
- 患者の心に寄り添いたいが、どう関わればいいかわからない
- 理解者として関われる看護師を目指したい
スピリチュアルケアに特別なことは必要ありません。ほんの少し意識を変えるだけで、患者さんへの関わり方が変わります。
ぜひ最後まで読んでみてください!
スピリチュアルな苦痛とは?
”スピリチュアル”と聞くと、宗教や目に見えない力を思い浮かべるかもしれません。
しかし、看護におけるスピリチュアルはもっと身近なものであり、誰もが直面しうる“生きる苦しみ”を指します。
たとえば、不治の病と告げられ、死が現実になったとき、人は生きる意味やこれまでの価値観を見失ってしまいます。
そんなとき、人は思わずこう口にします。
- 「なんで私がこんな目に…」
- 「この先私は何のために生きるの?もう生きていたくない。」
- 「私の人生に意味はあったのかな…」
しかし、このような問いには明確な答えを出すことはできません。
どれだけ学んでも、「これが正解です」と言えるものが存在しないのです。
スピリチュアルな苦痛=人生の生きる意味の見失った状態、誰にも答えを出せないと問い
このように理解しておきましょう!
スピリチュアルな苦痛が生まれる3つの瞬間
スピリチュアルな苦痛が生まれる瞬間は次の通りです。
- 将来への夢や希望見失ったとき
- 大切な人や物との関わりがなくなったとき
- 自分で選ぶことができなくなったとき
このうちのどれか一つが失われたとき、人は苦しみを感じ「生きる意味」が揺らぎます。
一つずつ順番に詳しく見ていきましょう!
将来の夢や希望は「前に進むための力」
私たちが今生きているのは、将来の夢や希望があるからです。
ときに困難と向き合いながらも「その先に意味がある」と感じられるからこそ、人は努力し続けられます。
しかし、その夢や希望が絶たれたとき、人は「自分の価値」や「存在の意味」にすら疑問を抱いてしまうのです。
甲子園を夢見て全力で練習に取り組んでいた
→ケガで出場できなくなった。これまでの努力や思いが無意味になり「自分はもう役に立てない」と感じる。

このように「未来に意味がある」と信じていたからこそ、それを失ったとき、人は深く傷つき、生きる意味を見失ってしまいます。
なぜ将来の夢や希望は生きる原動力となるのか?
将来の夢や希望が生きる原動力となっているのは、過去の経験が関係しているからです。
小さいころ母親に花を贈ったところ気に入って喜んでくれた
→たくさんの人に花で元気になってもらいたいから、自分で花屋をやりたいと思うようになった。

このように、その人の人生に意味のある将来の夢や希望となるのです。
つまり、”生きてきた軌跡”が未来につながっています。

人生の延長線上にあるから、将来の夢や希望は生きる意味になるんだね。
しかし、過去のつらい経験によって、未来を描けなくなっている人もいます。
「夢なんて持てない」と感じるのは、その人なりの人生の“意味づけ”があるからです。
過去にいじめられていた人の認識の違いによる将来への捉え方の違いを見てみましょう。

同じ出来事でも”どう受け止めるか”は人それぞれ。
だからこそ大切なのは、「その人がどう感じてきたか」に寄り添うこと。
過去の意味づけが変わると、少しずつ未来の見え方も変わっていきます。
大切な人や物との関わりは「心の拠り所となる」
人は苦しいときに、自分を支えてくれる何かに気づくものです。
普段は何気なく聴いているアイドルの音楽や、SNSで追っている推しの存在。
→実習中で心がすり減っているときには「その存在に救われている」と強く感じる
このように、人は誰かとの関係性の中で希望や安心を見出すことがあります。
それは家族や友人だけでなく、動物、自然、音楽、そして神のような超越的存在であることもあります。

- ペットの写真を見て「この子が待っているから」とリハビリを頑張る人
- 音楽に勇気づけられる人
- 散歩中に見た小さな花に元気をもらう人
- 神に祈ることで、苦しみの支えを感じる人
それぞれの「支え」は異なりますが、共通しているのは、“自分はひとりではない”と感じられる心のつながりがあることです。
そして、このつながりは、必ずしも目に見える存在である必要はありません。
むしろ、目には見えないけれど確かに心に届くものこそが、深い意味での「支え」になることがあります。
大切な人や物を失う苦痛とは?
人や物との関係を失う苦しみは今まで築き上げたものを失う苦痛です。
家族の転勤や進学に伴う引っ越しで、仲の良かった友人や近所の人と離れるとき。
→ 何気ない日常の中で支えになっていた人と離れる喪失感。
支えを失うという体験は、私たちの心に大きな喪失感をもたらします。
そしてときに、「これからどう生きていけばいいのか」と生きる意味さえ見失わせてしまうのです。
だからこそ「その人にとって何が心の拠り所となっているのか」を丁寧に見つめていく姿勢が求められます。
自分で選ぶ権利は「自分らしく生きる力」

私たちには、自分で決めることができるという大切な権利があります。
こうした「小さな選択」が積み重なって、自分らしい日々をつくっています。
でも、もしこれらを「全部人に決められる」としたらどうでしょう?
「今日はこれを食べてください」
「明日はここに行きます」
「これはあなたには必要ありません」
そう言われて、自分の思いを伝えることも、選ぶこともできなかったら。
“自由”が奪われたような感覚。それは、自分が自分でなくなるような苦しさを生むのです。
人生の最期には、できることが少しずつ減っていきます。
歩くこと・食べること・トイレに行くこと、それまで当たり前にできていたことが一人では難しくなっていくのです。
でも、選ぶことは残されています。
- 「誰の手を借りてトイレに行くか」
- 「この人なら体を拭いたり、オムツ交換してもらってもいい」
そんなふうに、自分の意思で決めることはできるのです。
一人でできるかどうかが大事なのではありません。
選択できる自由があるかどうかで、人の尊厳は大きく変わります。
スピリチュアルケアの第一歩は「理解者」になること
スピリチュアルな苦痛を感じている人が頼りたくなる存在はどのような人でしょうか?
それは、自分の気持ちをわかろうとして丁寧に話を聞いてくれる人です。
そのため、相手が「この人は私のことを理解してくれる人だ」と思えるような聞き方がとても大切です。

相手のことを100%理解することはできないけれど、相手に自分は理解者であることを伝えることは難しくない!
スピリチュアルな苦痛は誰にも答えることができない問いなので、無理に何かを言おうとしなくてよいです。
苦しんでいる人には「わかってくれる人がいる」というだけで、見える世界が少し変わってくることがあります。
スピリチュアルケアの基本は相手の苦しみに耳を傾けて、理解者として寄り添うことを意識してみましょう。
スピリチュアルケアに必要な3つのコミュニケーション法
とはいえ、理解者としての姿勢をどのように伝えていけばよいのか悩みますよね。
スピリチュアルケアに必要なコミュニケーション法を3つ紹介します。
反復は”相手への理解を示す”
反復とは、相手の言葉を要約して返すコミュニケーションの方法です。
- あなたの伝えたいことはこういうことですね
と相手のメッセージを受け取り、言葉にして返すことで「あなたの話をちゃんと聞いていますよ」と伝えることができます。

苦しんでいる人にとって、自分の思いが相手に伝わったと感じられることは、大きな安心や支えになります。

患者さんから「そうなんです」「そうだよ」といった言葉が聞かれたときは、よい反復ができています。
反復がないまま話が進むと、相手は「自分の気持ちが届いていない」と感じます。
そうすると、話すことをやめてしまったり、心の扉を閉ざしてしまったりすることもあります。
その沈黙は「この人にはわかってもらえない」という気持ちの表れです。
反復によるコミュニケーションに関するポイント
反復によるコミュニケーションを使うにあたって押さえておきたいポイントは、次の3つです。
- 反復を繰り返しても自然と会話は続く
- 話が長くなってしまう場合は、会話がひと段落下タイミングで要点を区切る
- マイナスが発現があっても反復してよい。
反復に大切なのは、「相手が何を伝えたいのか」というメッセージの本質に耳を傾けることです。
沈黙は”相手の大切な言葉を待つ時間”
沈黙は、相手が本当に大切なことを言葉にするための”心の準備が整うまでの時間”を待つコミュニケーション法です。
人は、自分にとって重いテーマほど、すぐには口に出せません。
- 仲直りしたいけど、どう切り出せばいいか迷っているとき
- 好きな人に告白するとき
- 友達に借りたものを壊してしまったときに謝る前
こういった場面では「どう伝えたらいいんだろう…」「相手はどんな反応をするかな…」といろいろ考えてしまって、なかなか言葉が出てきませんよね。
気持ちはあるのに、言葉にならない。そんなとき、沈黙が生まれるのです。
相手が自分の気持ちを言葉にしようと、心の中で一生懸命に整理している時間だからこそ、返答を待つことが大切です。
沈黙は相手のことを思いながら待とう!
会話の途中で沈黙が流れると、気まずいと感じてつい何か言いたくなりますよね。
しかし、沈黙に耐えられず話しかけてしまうと、相手が話そうとしていた本音が引っ込んでしまいます。
沈黙は、相手にとって「この人なら話してもいいかもしれない」と感じられる時間です。
なぜなら、沈黙があることで相手は急かされたり否定されたりしない安心感を得られます。

コツは”相手はどんな思いを抱えているんだろう”と意識して静かに待ってみることです。
また、静かに待ってくれることで、自分のペースで気持ちを整理できるのです。
聞き手が焦らず受け入れる態度を示していることが伝わると、心の壁が少しずつ解け、安心して本音を話せるようになります。

つまり、沈黙は相手に安心感と信頼感を与え、話しやすい「安全な場」をつくる大切なコミュニケーションの土台なのです。
もし、待っていても返答がない場合は、
と相手に尋ねてみてください。
この問いかけがきっかけで、話が少しずつ続き、相手は話しながら気持ちを整理していくことがあります。
問いかけは”相手の思いを表出させる質問”
問いかけは、スピリチュアルケアの中でもとくに難しいコミュニケーション技法です。
ただ質問するのではなく、これまでの会話の中で語られてきた「苦しみ」や「支え」のキーワードを丁寧にキャッチし、それをヒントに希望につながるような言葉を紡いでいきます。
- 体力が落ちてできないことが増えている
→もし、今できる範囲で何かに挑戦するとしたらどんなことをしてみたいですか? - 痛みで出歩けない
→もし、痛みが無かったらどこか行ってみたい場所はありますか?
このように、問いかけには「現実的に叶わないこと」であっても構いません。
大切なのは、“その人の中にある希望や支え”にそっと触れること。
希望や支えが見いだせない人に対する問いかけ
人生の最終段階では、今までできていたことができなくなることで、自尊心が失われ、「希望なんてもうない」と感じる方も少なくありません。
たとえば、「早くお迎えが来てほしい」と繰り返し口にする方に、どう声をかければいいのか、戸惑うこともあると思います。
そんなときこそ、「自分は誰かにとって大切な存在だった」と思い出していただくことが希望につながることもあります。
たとえば、ディグニティセラピーの考え方を参考にして、こんな風に尋ねています。
一般社団法人 エンドオブライフ・ケア協会 HPより
- これまでの人生について少し教えてください。特に、○さんがもっとも憶えている、あるいはもっとも大切だと考えているのは、人生のどの時期でしょうか。もっとも生き生きしていたと感じるのはいつのことですか。
- ○さんのことで、大切な人に詳しく知ってほしいことや、特に憶えておいてほしいことがありますか。
- これまでの人生で○さんが果たしてきた役割(家族の中での役割、仕事での役割、社会的な役割など)の中で、○さんにとってもっとも大切な役割は、どの役割ですか。どうしてそれが○さんにとってそれほど大切なものなのですか。その~という役割では、どのような役割を果たすことができたと思いますか。
- これまでやり遂げたことで、○さんにとって、もっとも重要なことはなんですか。もっとも誇りに思うのはどのようなことでしょうか。
- ○さんから、大切な人に伝えておかなければと感じていることや、もう一度時間をとって伝えたいことが、何か特別にありますか。
- ○さんの、大切な人に対する希望や夢にはどんなことがありますか。
- ○さんが人生から学んだことで、誰かに受け渡したいと思うことはありますか。大切な人へ受け渡したいアドバイスや指針にはどのようなものがありますか。
- 大切な人が将来に備えるうえで役立つように、伝えておきたい言葉や、指示などはありますか。
- これは(大切な人の手元に)ずっと残るものですが、ほかにも入れておきたいものはありますか。
このような問いかけを通じて、その人が「生きてきた意味」や「大切にしてきたもの」に光をあてることができます。
それは、これからの時間をどう過ごすかを考える手がかりにもなります。
まとめ
スピリチュアル的苦痛とは、「生きる意味の喪失」や「誰にも答えられない問い」によって生じる苦しみです。
「将来の夢や希望」「大切な人や物」「自分の選択権」を失ったときに感じると言われています。
この苦しみを和らげるには、「理解してくれる人がいる」と相手に感じてもらうことが大切です。
そのためには、「反復」「沈黙」「問いかけ」などの関わりを通して、相手にとっての理解者になることが求められます。
スピリチュアルケアは特別なことではなく、日々の小さな関わりの中で実践できます。
とはいえ、いざその場に居合わせると、つい言葉をかけたくなるものです。
それでも少し立ち止まって、相手の思いに耳を傾けてみてください。
経験を重ねることで、少しずつスピリチュアルケアの本質が見えてきます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
コラム:宗教とスピリチュアル的苦痛
宗教はスピリチュアル的苦痛の支えとなることがあります。
- 将来の夢や希望:肉体が滅びても魂は天国へと旅たち生き続ける
- 大切な人や物とのつながり:人を超えた存在とのつながり
- 選択の自由:仏教やキリスト教などを選ぶ権利
宗教的な死生観は、「死後に家族と再会できる」「天国で安らかに過ごせる」といった希望を生み、死の淵でも人は生きる力を見いだすことができます。

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